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通りがかりで渉成園 [時井]

十二月 赤いお知らせランプが点滅し
トナーカートリッジ交換の準備を予告するとき
十二単の袖を巻き込み 紙づまり
排紙口の一句を引きとめ 三句切れ

下の句は カートリッジを取り出すとき
排紙ローラーを三段背面飛びで 手をすりぬける
あなたは解れ糸に気づき 脱いだと唱え切る
私は再印刷を試み しのぶもじずり

あなたは未知の句を 私は復旧をあきらめる
誰の歌? ぼくが作った歌——
誰のせいでもない 真夜中の沈黙のせいにしよう

誰彼 下の句を探し 二十四号線を横切る
送りハンドルで 十二単の袖を乱しながら
教習所で習わないのに どこで習ったのですか?
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おまけ
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通りがかりで與杼(ヨド)神社 [時井]

恋は奥歯の峰に銀色に光り 縄ばしごを登る
あまのじゃくな風にあおられ 私は落葉となり
ヤツデの救助マットと握手する
胸に残る違和感は あなた知らず

夢は水平線をみつめさせ 長縄跳びをさせる
大波に 私はゴム草履と足跡をさらわれ
小波に あなたは両足を引っかけ お疲れさまと告げる
足うらの火傷は あなた知らず

老人は 油圧ショベルのバケットから土を受け
敷いたわらの波の上を 足袋底に土をつけて
竹薮の斜面を 一輪車で下っていく

私は 長靴に履きかえ 泥濘を泥はねを気にして 榊を採る
足うらの違和感は 落葉か火傷か 恋だろうか夢だろうか
雨やどりは ヨド物置で
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通りがかりで與杼神社 [時井]

風の通い道は 郵便受け
消印を押し忘れた郵便物が届くとき
あなたは グラスに水を注ぎ くり抜き沈めた
そして 仲を引裂くように分離させ グラスに咲かせた

風の通い道は 郵便受け
時候の挨拶や改行や余白が似ていたから
あなたのグッドサインを思い出した
私が 裏声で 風に頼みごとをしたとき

風の通い道は 郵便受け
集配ポストと錯覚し 投函するひとがいる
あなたがいたずらで 誘導させるのでしょう

風の通い道は 郵便受け
夢のなかで あなたは私の住所を尋ねる
だけれども配達はされず 気紛れに差し戻したのでしょう
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通りがかりで誕生寺(京都市伏見区) [時井]

あなたは洗い桶に名刺を浮かべた
たとえば難破船の甲板から滑りおち
浮遊物に右頬を腫らす者とつかまるとき
あなたは その背中を押すかもと告げた

青く 内出血した私の爪を見つけ
あなたは押さえながら これ痛い?と更に押さえた
痛いですよと答えると 指ずもうできる?と
いたずらっ子の目で笑った

人は 保護色をまとい ありふれた日々を過ごす
なのにあなたは惜しげもなく 脱衣所で脱いでいく
いつか素肌をさらす季節 正視できずうつむくだろう 

銀杏が 木葉をほぼ散らし さらけだすもの
樹皮 道路 側溝 垣根 壁 瓦 あの頃見えなかったもの 
季節がめぐれば 青葉はそれらを隠すだろう
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通りがかりで清涼寺 [時井]

湯沸室のコーヒー休憩 事務室から何か弾く音
私はドアクローザーで あなたと交錯する
不意に扉を閉じるから 私は右手をはさみ
頬を腫らしたねずみを あなたはドアストッパーとし

カランを回す 使い残しの温水は逆球のよう
泡沫吐水で 私は手を冷やし あなたも手を冷やす
白タイルに七色の光 キッチンタオルのよう
しびれよ収まるな いま時の流れは消えた信号 

製氷皿をねじり 氷袋を作る
ひと粒は あなたの昨日の怒り 立体構造を残す
ひと粒は 私の昨日のあきらめ 胡蝶蘭の押し花

炊事場の動線は レ・ナ・チ・コ・ハ
逢坂の関の動線は コ・イ・ワ ア・ワ・ヤ
花束を抱える人も 源泉徴収票を探す人も 手を冷やす人も 虹をつかむ人も
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おまけ(蝉丸神社)
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冷蔵庫~流し~調理~コンロ~配膳

通りがかりで補陀落寺 [時井]

老婆は 傘立で立ち往生する
ほぼほぼ未使用の傘が 古びた傘と入れ替わっていると
つゆ先のこぼれた一粒 石突の土
さらに 下ろくろを持ち上げ 透明度の不足

私が開けたままの袖引き出し
あなたは 粗品の卓上カレンダーを積載し指で押込む
左腕の風防が 擦れぬよう
未来からの使者が現れ 予言せぬよう

老婆は 雨やみと傘を待ちつつ
Jの手触りを確かめ その指はいずれも拒絶する
二素は長雨と長雨 交互に降り続く 

あなたは 退いてとささやき 私は席を立ち まだ退いて
どいては勘違い 心当りは同意して
私は 同意しないをクリックする
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おまけ
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通りがかりで安楽寺 [時井]

かつて 一どは目をつむり 角川文庫を閉じ
キラキラ 眩しい頁から遠ざかるよう 書棚に戻す
だけれども だけれどもを無視できず
畏れたとおり 十四行を編んだ

浅き春 ひとりは幾度か振り向いたらしい
私は あなたに あなたの訃報を告げたとき
わざわざありがとう でも聞いて知っていると わざわざ
そうして 十四行を思い出した

今は十二月 私を感知するように困らせるように
落葉は降りそそぐだろう 赤い塵取に集めても集めても
竹箒に 抜殻と抜殻がひっかかり

今は十二月 塵取とU字側溝は友達になれず
素手を差し入れる 遠いうなりが響くエアー抽選機のように
わだかまりのハズレ籤なし 一等はあなたの振る手
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通りがかりで正法寺 [時井]

オシは 押入のB寝台でかくれんぼ
かつて 公園の石碑の背中で気をつけし
まあだだよ 少しいじわる引きのばす
視線の先は大空に三日月 兎の窮屈さに気づく

オシは 押入の幾夜のふすま越し
そして 舞台暗転 かくれんぼからけった遊び 
オニが 百まで数えた滑り台まで 走り抜ける予感
視線の先はシーリングライト 兎の窮屈さに気づく

明日 滑り台までゆっくり歩き 手形合わせでけったと叫ぶだろう
オニは 私を追いかけてこない
そして 私の心にも存在しない

オシは 今日一日だけ かくれんぼで自宅待機
そして 今更ながら もういいよとつぶやく
・・・ネフは A寝台で不意に自宅待機・・・
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おまけ
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